being、doing、havingの違いと全てを引き出すコーチング術

コーチングやカウンセリングなど、コミュニケーションスキルを学ぶ場では、よく、「being(あり方)」や「doing(やり方)」といった言葉が出てきます。そして、「『やり方』より『あり方』の方が大事」といわれます。

「あり方」とは、ある物事の「当然こうでなければならない」状態や、物事の「正しい存在のしかた」のことです。そのため、「やり方」(スキルやテクニックなど)よりも、コーチやカウンセラーとしての「あり方」(どのような気持ちで関わるか)が大切なのだといわれます。

コーチやカウンセラーの「あり方」だけではありません。「こんな風に生きたいんだ」「こういうことた大切なんだ」という、相手の「あり方」と関わっていくのが大切だともいわれます。

もし、あなたがコーチングやカウンセリングなどのコミュニケーションスキルを学んでいたら、「相手の存在に寄り添ったコーチング(または、カウンセリング)ができるようになりたい」とお思いではありませんか?

コーチングやカウンセリングを行う上で、その意識はとても大切です。

では、具体的にどうすれば「相手の存在に寄り添う」ことができるのでしょうか?そう問われると、意外と困ってしまうかもしれません。

また、「それはすばらしいですね」「大変でしたね」「ツライですね」のように、相手の存在を受け入れ、寄り添うことができても、相手の行動が伴わなければ抱いている目標は実現しませんし、抱えている問題も解決しません。なぜなら、コーチングやカウンセリングでは、being(あり方)だけでは不十分で、doing(行動)も大切だからです。

つまり、「どっちか」ではなく、「どっちも」大切なのです。

「存在」とか「あり方」というと、難しく聞こえるかもしれませんが、実は、ちょっとしたコツをつかめば、相手のbeingやdoingは比較的簡単に引き出すことができます。そして、これらをうまく引き出せれば、相手に寄り添いながら上手にコーチングやカウンセリングができるようになります。

もし、あなたが、「意識」や「気持ち」を超えて、本当の意味で相手の存在に寄り添い、行動に導く「具体的な方法」を知りたければ、この記事を読んでみてください。

being、doing、havingとは何か

コーチングやカウンセリングでは、being、doingの他に、havingもよく出てきます。そこで最初に、being、doing、havingとは何かについて、簡単に整理しておきましょう。

beingとは

beingとは、beという動詞にingを付けて名詞化したものです。beには、「ある」「いる」「存在する」「起こる」などの意味があるので、beingには、「あり方」や「存在」という意味があります。

doingとは

doingとは、doという動詞にingを付けて名詞化したものです。doには、「する」「行う」「果たす」「遂行する(やり遂げる)」などの意味があるので、doingには、「行い」や「行動」という意味があります。

havingとは

havingとは、haveという動詞にingを付けて名詞化したものです。haveには、「持っている」「所有する」「与えられている」などの意味があるので、havingには、「持ち物」や「所有」という意味があります。

being、doing、havingの関係性

being、doing、havingはそれぞれが単独で存在しているのではなく、お互いが強く関係しています

ここで、コーチングやカウンセリングなどのコミュニケーションスキルを身に付けることを例にして、それぞれの関係性をみてみましょう。

「コミュニケーションスキルを身に付ける」は、「する(do)こと」なのでdoingですね。そのために、セミナーや講座に通ってコーチングやカウンセリングの資格を取る方も少なくないでしょう。ここでいう資格は「所有する(have)こと」なのでhavingです。実際、資格を取った人は「私はコーチング(またはカウンセリング)の資格を”持っています”」と言いますよね。

では、何のために「コミュニケーションスキルを身に付ける」のでしょうか。「周りの人(職場の同僚やお客さま、家族など)といい関係を作りたい」「部下を前向きにリードしたい」「困っている人を助けたい」など、その理由は人それぞれだと思いますが、「コミュニケーションスキルを身に付けたい」と思った、何かしらの理由があるはずです。

さらに、それら「○○したい」の理由を考えてみると、「いい上司でありたい」「周りの人を支援できる人でありたい」「仲間と楽しく仕事がしたい」「いつも前向きな自分でありたい」など、いろんな理由があるでしょう。

この、「こうある(be)こと」がbeingです。

being、doing、havingの関係を図で示すと、次のように表すことができます。beingの方向は目的、havingの方向は手段です。全てがつながっていることがお分かりいただけるでしょう。

「あり方」や「存在」というと難しく聞こえますが、「こうありたい」なら、なじみやすいのではないでしょうか。また、相手が「大切にしていること」や、「私はこういう人だ」という自己認識、そういう人でいる「意味」や「目的」もbeingです。

意識を他のレベルに導く重要性

とはいえ、「コミュニケーションスキルを身に付けたい(doing)」と思っている人が、「周りの人を支援できる人でありたい」「そんな私はすばらしい存在だ」のような、beingレベルの「それをする目的や意味、価値、使命、役割」を認識できている人は、少ないのかもしれません。

逆に、「私は世界の平和と愛が最も大切(being)」のように、物事を、「愛」「平和」「存在」「あるがまま」「宇宙」など、抽象的な捉え方をするのが得意なタイプの人もいます。そのような場合、「どうやって世界の平和を実現するのですか?(doing)」と問いかけたら、なかなか答えられないでしょう。

このように、人には「得意な思考パターン」があります。そして、それ以外のレベルには、意識が向きにくい特徴があります。得意な思考パターンについて、詳しくは、【診断付き】自分の思考パターンを知り「考える幅」を拡げようも併せてご覧ください。

また、人は今まで意識していなかった(考えていなかった)ところに意識が向いたときに、新しい気付きが起こります。コーチングやカウンセリングでは、相手の意識を異なるレベルになるように導くことがとても大切です。気付きについて、詳しくは、「気付き」とは?―脳がひらめくコミュニケーションスキルも併せてご覧ください。

being、doing、havingを引き出す方法

being、doing、havingを引き出す方法の基本は、コツさえつかめばとても簡単です。これらは全てがつながっているので、相手が発する言葉をきっかけにして引き出すことができます。

having → doing → beingの引き出し方

havingからdoing、doingからbeingを引き出すためには、「それによって、どうなる?」という問いが便利です。

例えば、相手が、「コーチング(または、カウンセリング)の資格が欲しい」(having)と言っていたら、この状態からdoingを引き出すには……

「コーチングの資格を取ることで、どうなれるのですか?」

のように問いかけます。その答えは、「部下を前向きにサポートできる」(doing)などのようになるでしょう。

さらに、doingからbeingを引き出すには、同様に……

「では、部下を前向きにサポートできると、どうなれるのですか?」

のように問いかけます。その答えは、「いい上司でありたい」「周りの人を支援できる人でありたい」(being)のようになるでしょう。

このように、「それによって、どうなる?」という問いは、「それが手に入ることによって、得られること」(目的)が分かるので、何度か繰り返して問いかけると、自然と、相手が認識していないbeingを自然と引き出すことができるのです。

「それによって、どうなる?」の他にも、「その目的は?」「その意味は?」でも、同じような効果があります。

このように、ある物事の目的や意味を引き出すことを「抽象化」と言います。「抽象的思考能力」で問題解決力を高めようも併せてご覧ください。

being → doing → having の引き出し方

beingからdoing、doingからhavingを引き出すためには、「どうすれば?」が便利です・

例えば、相手が「周りの人を支援できる人でありたい」という相手からdoingを引き出すには……

「周りの人を支援できる人であるためには、どうすればいいでしょう?」

のように問いかけます。その答えは、「相手の話を傾聴する」「相手が実現したいことを明確にできるようコミュニケーションスキルを身に付ける」(doing)などになるでしょう。

さらに、doingからhavingを引き出すためには、同様に……

「相手の話を傾聴するためには、どうすればいいでしょう?」

のように問いかけます。その答えは、「傾聴スキルを身に付ける」「傾聴の資格を取る」(having)などになるでしょう。

このように、「どうすれば?」という問いは、「それが手にするための手段」が分かるので、何度か繰り返して問いかけると、相手が認識していないdoingやhavingを自然と引き出すことができます。

「どうすれば?」の他にも、「例えば?」「具体的には?」でも、同じような効果があります。

このように、ある物事を実現する手段を引き出すことを「具体化」と言います。具体的思考とは?抽象的思考とは?も併せてご覧ください。

相手の存在に寄り添うためには?

これまでのお話で、相手の「こんな風に生きたいんだ」「こういうことた大切なんだ」――つまり、being――を引き出すには、「それによって、どうなる?」と問いかければ引き出せることが分かりました。

では、「相手の存在に寄り添う」ためにはどうすればいいのでしょうか。一言で「相手の存在に寄り添う」と言葉にするのは簡単ですが、実際にはとても難しいことなのかもしれません。

筆者の意見では、「相手の存在に寄り添う」とは、相手から「この人だったら分かってくれる」「この人だったら信頼できる」と感じてもらうことだと考えています。

そのためには、「繰り返す」という傾聴の技法が非常に有効です。相手の話を聞きながら、自然と寄り添うことができます。詳しくは、コミュニケーション能力における「共感力」の本当の意味傾聴とは相手に意識を100%向けて理解しようとすることも併せてご覧ください。

まとめ

コーチングやカウンセリングにおけるbeing、doing、havingと、それを引き出す方法についてまとめてきました。

コーチングやカウンセリングを行ってきて大切だと思うのは、相手が言葉にできていない背景に思いを馳せて、それを丁寧に引き出し、確認していくことだと考えています。

そして、意識を普段考えているレベルから、異なるレベルに導けば、自然と気づきや新しい発見は起こります。

「言葉ではこう言っているけれど、言葉の裏にはどんな目的や意味があるのだろう?」「この人が大切にしていることは何だろう?」「それを実現するためには、どうすればいいのだろう?」「何が手に入ったら、それが実現できたといえるのだろう?」……このような、being、doing、havingの、それぞれが持つ意味や役割を理解して、相手に関わっていくことが大切です。

また、この効果をご自身で体験、トレーニングしたければ、自分の考えをチャートにまとめる方法もあります。「考える」が楽しくなる!チャート式論理的思考トレーニングも参考にしてみてください。

投稿者プロフィール

竹内義晴
竹内義晴NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。専門は「コミュニケーション」と「チームワーク」。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。しごとのみらいでは「もっと『楽しく!』しごとをしよう」をテーマに、職場の人間関係やストレスを改善し、企業の生産性と労働者の幸福感を高めるための企業研修や講演、個人相談を行っている。サイボウズではチームワークあふれる会社を創るためのメソッド開発を行うほか、企業広報やブランディングに携わっている。趣味は仕事とドライブ。

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